グアテマラ内戦(差別、虐殺)の歴史を書いた本「私の名はリゴベルタ・メンチュウ」感想、おすすめ

グアテマラ内戦(差別、虐殺)の歴史を書いた本「私の名はリゴベルタ・メンチュウ」感想、おすすめ




グアテマラの内戦について、みなさんはどのくらい知っていますか?

歴史の教科書にも載っていないし、ナチスドイツやルワンダ虐殺とも違って映画や物語としてもあまり日本には浸透していません。

実際私もグアテマラに来て、自ら能動的に知ろうとするまで、そのことについてほとんど知りませんでした。。

特に、ある本を読まなければ、そのあまりに悲惨な歴史を知りもせずに、

「グアテマラは観光地も楽しくてお土産もかわいい国」

くらいの印象しか持たなかったかもしれません。

 

その本というのは、

 

『私の名はリゴベルタ・メンチュウ -マヤ=キチェ族インディオ女性の記録-』

 

「グアテマラに来る前に読んでおくべきだった・・・」と後悔するほどに、濃い内容の本でした。

つい最近までグアテマラ国内では内戦が続いていた、という事実は認識こそしていたけど、まさかこれほどまでに悲惨で残酷な歴史があるなんて・・・

現在、普通に生活しながら眺めているグアテマラの風景からは想像もつかないおぞましいものがそこにはありました。

 

 

グアテマラ先住民女性による内戦の様子告発「私の名はリゴベルタ・メンチュウ」本の要約

リゴベルタ・メンチュウさんというのはグアテマラ出身のインディヘナの女性です

 

注意
インディヘナとは、ラテンアメリカ先住民のことです。インディオという呼び方もありますが、差別的な響きがあるため、このブログではインディヘナと統一します 

 

の女性で、同国におけるインディヘナに対するあらゆる差別、搾取、暴力と戦った女性活動家です。

グアテマラでは当時、ラディーノと呼ばれるスペイン系グアテマラ人が中央政府に君臨し、主に地方で暮らしているインディヘナを差別、搾取、時には武力で抑圧していました。

グアテマラでそれらの差別と闘い、多くの家族や仲間を失いながらもかろうじて国外に脱出したリゴベルタ・メンチュウさん。

彼女が人類学者のエリザベス・ブルゴスさんと1週間生活を共にし、グアテマラで起きていること、そこで実際に目撃・体験したことを語り続け、そうして残った25時間にも及ぶ録音テープを元に編纂されたのが本書、「私の名はリゴベルタ・メンチュウ」です。

 

インタビューでのリゴベルタ・メンチュウさんの語りがほとんどそのまま文字におこされているので、本を読むというよりも、お婆ちゃんから戦争の体験を聞いているような感覚で、当時彼女が見た光景や感じたことをありありと思い浮かべることが出来ます。

 

ペンは剣よりも強し、という言葉の通り、この本は発表されると同時に英仏両国語に翻訳され、この本をきっかけに世界中の人がグアテマラでどれだけむごい悲劇が起きているのかを知ることになります。

そしてリゴベルタ・メンチュウさん自身はこの本の発表をきっかけに、1992年にノーベル平和賞を受賞することになります。

それほど、当時世界に大きな影響を与えた本書です。

 

 

ラディーノ大地主によるグアテマラ先住民、インディヘナ搾取の歴史

ラディーノ大地主によるグアテマラ先住民、インディヘナ搾取の歴史

グアテマラは農業国で、有名なコーヒーをはじめたくさんの大農園があります。

 

当時は、それら農園の大地主がインディヘナたちを低賃金労働者として不当な条件で雇い、過重な労働に酷使していました。

 

リゴベルタ・メンチュウさん本人も、初めて母親に連れられて農園に行ったのが2歳のときで、8歳のときには低賃金労働者として農園で働き始めたといいます。

過酷な条件下での労働で、時には死者も出るほど。

 

本書には実際、リゴベルタ・メンチュウさんの兄弟や友人が農園で亡くなった際のエピソードが書かれています。

農園での作業中に飛行機から農薬を散布されるなど、信じられないような扱いを受けていたことがわかります。

また、農園には売店が設けられ、そこでお酒を販売し、疲弊した労働者がそこでお酒に溺れ、賃金のほとんどを使い果たす、といった搾取のシステムが恐ろしいほど周到に作られています。

こうしてインディヘナは長い間、安価な労働力として搾取され続けていたのです。

 

 

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内戦時のラディーノによるグアテマラ先住民インディヘナ差別の歴史

内戦時のラディーノによるグアテマラ先住民インディヘナ差別の歴史

 

インディヘナ、と一言にいっても実際には多くの異なる文化圏が混在しています。

 

Wikipedia グアテマラ より引用

 

実際に言語だけでも21種類もの異なる先住民言語があり、インディヘナ同士でも出身地域が違うと言葉でのコミュニケーションがとれないほどです。

 

当時、ラディーノにとってスペイン語を解さないインディヘナは「自分たちよりも劣るもの」として、怠け者のレッテルを貼りバカにしていました。

とはいえ、ラディーノといっても全てのラディーノが裕福で搾取する側にいるわけではなく、なかには当然貧乏なラディーノもいるわけです。

本書にはあるとき、リゴベルタメンチュウさんが貧乏なラディーノと話してみようと決めたときのエピソードが書かれています。

 

「あんたは貧乏なラディノなのね、そうでしょう?」と言ったのです。あやうく殴りとばされるところでした。「インディオふぜいになにがわかるか!」と言われました。-中略-インディヘナとラディノを隔てているこの壁が構造的に作り出されたものであるとは思いもつきませんでした。

私の名はリゴベルタ・メンチュウ 本書より引用

 

ラディーノたちはどんなに貧乏でも、「それでも自分たちはインディヘナじゃない」、と、あくまでインディヘナを「違うもの」、自分よりも「下等なもの」であるという差別的な考えが自意識の中に根付いていることが顕著にわかるエピソードです。

当時はそれほどまでに、インディヘナ差別の感覚は人々の意識に浸透していたのです。

 

 

拷問・虐殺・レイプ グアテマラ内戦で起きた目を覆いたくなる悲劇の歴史

Wikipedia グアテマラ内戦 より引用

Wikipedia グアテマラ内戦 より引用

「別のものだ」というような差別意識と「多数派こそが正しい」という集団意識が「暴力」と結びつくことで起きる悲劇・・・虐殺・・・ジェノサイド・・・

本書では当時の、目を覆いたくなるような暴力(拷問、レイプ)の様子が鮮明に描かれています。

リゴベルタ・メンチュウさんの家族や周りの人に起きたあまりにおぞましい暴力の様子は言葉にできません。

ただ、このような歴史も、「どこか遠い国で起きた悲劇」としてスルーするだけではなく、自分の身の回りのことに置き換えて考えることが大切なのかと思いました。

 

例えば、いじめ

 

言動が奇妙だ、なにを考えているか分からない、気持ちが悪い、自分の頭で理解できないものに対して数の力で排除しようとするような動きは、規模こそ違えど、同じベクトル上のことが実はけっこう身近で起こっているのではないでしょうか。

歴史を学ぶことの意味は、例えどんなに規模が小さくても、同じ過ちを繰り返さないよう一人一人が再認識することなのかと思います。

 

 

グアテマラ先住民インディヘナの文化や生活習慣

グアテマラ先住民インディヘナの文化や生活習慣

と、暗い歴史に焦点を当ててここまで書いてきましたが、本書はグアテマラ先住民インディヘナの文化や生活習慣についてもリゴベルタ・メンチュウさんの体験に基づいて鮮明に記録されており、そういった意味でも非常に読む価値のある本です。

家族やご先祖様、共同体(コミュニティ)といった人と人との繋がりを大切にしたり、自然や動物を尊んだりする風潮は、昔の日本にも通じるところがあるように思います。

年齢の節目節目にある儀式や結婚を申し込む際の慣例など、日本の七五三や結納などといった慣例と対比してみるのも面白いかもしれません。

また、ジェンダー、男性優位主義(マチスモ)についても、弱い立場にあったリゴベルタ・メンチュウさん自身の視点から語られており、興味深いです。

 

 

内戦時のグアテマラを知る為のオススメ本「私の名はリゴベルタ・メンチュウ」を読んだ感想

内戦時のグアテマラを知る為のオススメ本「私の名はリゴベルタ・メンチュウ」を読んだ感想

色鮮やかな民族衣装や荘厳なマヤ文明の遺跡に感動して、「グアテマラ最高!」「グアテマラ大好き!」という人がいると、私も嬉しくなります。

その中でも更にグアテマラの歴史を知りたい、という人は、マヤ文明やスペイン占領の歴史だけでなく、近年に起きたグアテマラ先住民インディヘナ(インディオ)に対する差別・虐殺といった悲しい暗い内戦の歴史のことも知ることをオススメします。

そう遠い歴史でもありませんので、当時のことを覚えている人もグアテマラにはまだまだたくさん居ますし、どこかでその歴史の面影を垣間見ることが日常であるかもしれません

決して楽しい内容の本ではありませんが、グアテマラのことをもっと知りたいという方には是非ともこの、

 

『私の名はリゴベルタ・メンチュウ -マヤ=キチェ族インディオ女性の記録-』

 

を読んでいただきたいです。

 

また、あわせて読む本として、

 

内戦時のグアテマラを知る為のオススメ本「私の名はリゴベルタ・メンチュウ」を読んだ感想

 

『グアテマラ 虐殺の記憶』

 

もオススメです。

 

「私の名はリゴベルタ・メンチュウ」がリゴベルタ・メンチュウさん本人の視点と証言に基づいて作られた本であるのに対し「グアテマラ 虐殺の記憶」は当時実際に起きた事件の資料、統計的なデータ、そして数々の“当事者たち”による証言により作られた本であり、より客観的に内戦の状況をうかがい知ることが出来ます

一人称で語られた「私の名はリゴベルタ・メンチュウ」を読んだ後に客観的な分析・編集を施された本書を読むことで頭の中が整理されるので両方読むことをオススメします

こちらも、出てくる証言は、やはり眼を覆いたくなるような残虐な行為の数々です

恐怖による民心のコントロールは恐ろしい、と、改めて思わされます

 

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1 個のコメント

  • グアテマラで内戦についての映画を見て、色々調べていたらたどり着きました。
    僕が生きてる時代にこんな悲惨な内戦があったことが驚愕でした。
    紹介していただいた本を読んでみたいと思います。
    ありがとうございます。

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    ABOUTこの記事をかいた人

    一部上場企業での海外営業、シンガポール駐在を経て、いろいろあって気がついたらグアテマラでボランティア。30にして「レールから外れる」を経験した男の働き方観、離婚経験を含む生活観、そしてボランティアとして生活したグアテマラの魅力、スペイン語学習方法を中心に発信します。